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第71回 From London vol.112025/6/11

こんにちは! Mikaです。

今回は、緊急保安訓練テストについて書いてみます。
題して「泣く子も黙るSEP & AvMed - 緊急保安訓練&航空ファーストエイド試験」です。

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筆者は、現在所属会社一筋のため、他社のトレーニングは見聞きしたくらいしか無いのですが、今年は念頭から胴体はおろか、天地がひっくり返る緊急着陸に、その避難を見事に誘導した乗務員が話題になりました。

'Think of every possible eventualities'と言うのは、保安訓練で教官が口にする常套句の様なものですが、実際自分があのドアに立っていたら、と、想像するだけでも胃が縮む感じがします。

Safety and Emergency Procedures - 略してSEP。ライセンス機種の緊急保安訓練及び試験が入社時から毎年12ヶ月以内にスケジュールされるわけですが、それと同時にAviation Medicine - 略してAvMed、航空ファーストエイドもオンラインテストと実地テストが開催されます。

A350Leisure仕様アッパークラスのロフトモックアップ


新人入社時は6週間の訓練で、毎日のテストのパスマークが88%以上で合格しないと、再テスト。それに落ちて再々テストになると、教官の口頭試問がさらに2問。これに答えられないと、残念ながら訓練生失格となり、成田クルーは、もれなく日本に帰国、という緊張感ある訓練期間でした。本国クルーも同様。

年に一度のSEPも、パスマークは、新人トレーニング時代と変わらず、もしも再試験不合格となると、教官と一対一の口頭試問へ。これまた不合格になると、ラインから外されることになり、新人トレーニングに戻されるシステムです。

コロナ時は、自宅でオンラインテストを済ませてから、実地のみを訓練センターで、少数グループに分かれて行うスタイルが導入されていましたが、今年から以前の通り、教官監視のもと試験実施という本来のスタイルに戻りました。

エアバスドア


試験のメニューは、ボーイング、エアバス、それぞれ機種別にロケーションダイアグラムより、緊急保安用品の所在地や使用方法、注意点等はじめ、飛行機安全運行に関わる内容がテストされます。実地はリグ(モックアップ)でのシナリオ(教官に課される仮定のシチュエーションに対応)、緊急事態にいかに対処できるか、個人、及び、グループでのアセスメント等です。

ファーストエイド試験は、各病気や怪我の対処方をはじめ、機内ならではの体の機能はもちろん、皆さんご存知、ちょっとした乗り物酔いから、出産、蘇生処置まで幅広く知識を求められます。
機内備え付けの薬のロケーションや、それぞれの薬がどのパウチに保管されているかや、近年多くなったSoecial Assistantが必要なお客様に対する法的な我々の立場や、各国の違いも問われます。オンラインテストと実地試験も、パスマークは同じです。蘇生訓練や、AED、アナフォラキショックの訓練も含みます。

IATA国際航空運送協会規程の機内及び貨物持ち込み禁止品及び付随の対応(Dnagerous Goods)、CAA英国民間航空局の定める保安規定知識及び、手錠やボディーベルトの装着実地訓練テスト、マニュアルハンドリング(筋肉や梃子の原理を適切に用いて、腰痛等、怪我を最小限にするための所作のトレーニング)が毎年のメニューです。

ボーイングモックアップ


そのほか、3年に一度、トライアニュアルと呼ばれる別途実施の保安訓練では、照明が消灯され、煙が充満している機内モックアップでの消火訓練や、暴力的な乗客からコックピットや乗員乗客を守るための初動対処の実地訓練テストも実施されます。加えてモックアップ訓練では、その時々の旬のトピックを取り入れて、アニュアルリカレント(毎年のSEP)より、更に掘り下げた内容の実地訓練も行われております。

毎便前のブリーフィングでは、客室責任者が、クルー一人ずつにSEP及びAvMedの口頭試問。答えられない場合は、さらに二問、それも不合格だと、乗務便から降ろされて、トレーニングセンター戻りです。

他社では、どれ位の頻度であるかわからないのですが、我が社では、当日の抜き打ちも結構あり、トレーニング部の教官らに、クルールームにショーアップ時に検問を受けることも。

機内では、電子機器等のダミーが当局によって配置されていることもある便もあって、乗務員はもちろん、清掃に関わるクリーナーの皆さんや、ケイタリング、機内の安全確認をを担っている専門業者もテストされています。搭乗前のわずかな時間で、安全確認をするのは非常に大変な作業ですが、安全運行には欠かせない、1番大切な業務と言っても過言ではありません。

ちなみに、イギリスでは、まだ100ミリリットル以上の液体物を機内に持ち込むことは出来ません。(但しエアサイドの購入品は含まれないので、香水や飲料水などの購入は可能です。) 
他国の空港の様に、液体物探知機がもっと発達した機械が導入されるのを心待ちにしています。

AvMed実地試験場
それにしても、何度やってもド緊張のSEP試験。
緊急事態に叫ぶコマンド'Heads down, Feet back!'、という、自分の声の大きさにビビったり、年齢とともに衰える記憶力に、これまたびっくり驚く昨今ですが、皆さんは、訓練試験どの様に乗り越えていらっしゃいましたか?


次回へ続く