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第79回 From London vol.192026/5/17

Above the Line, Below the Line ──その日の心模様

こんにちは。Mikaです。

5月に入り、新緑がまぶしい季節になりました。ゴールデンウィークも過ぎ、新学期もいよいよ本番です。イギリスでは学年末を控え、今週から全国統一試験が始まっています。
ハンタウイルスや、相変わらず続く世界各地のコンフリクトなど、不安なニュースは尽きませんが、各ワークプレイスでは大きな混乱もなく、日々の業務が続いていることと思います。

さて、新人であってもベテランであっても、毎回の仕事へ向けて気持ちをどうギアアップしていくか──その微調整の時間は、パフォーマンスに大きく影響する大切なプロセスだと感じています。

今回は、「心模様をいかに上機嫌に保つか」というお話です。

デリーのルームサービス


同じ制服に身を包み、同じブリーフィングを受け、同じ機内に立っていても、その日のコンディションはクルーそれぞれ違います。
現場でよく使われる言葉に、「Above the Line」「Below the Line」があります。

Above the Line
前向きで、状況を受け入れ、自分の役割に集中できている状態。

Below the Line
余裕がなく、視野が狭くなり、感情や外的要因に引っ張られている状態。

人である以上、その間を行き来するのは自然なことです。
フライト前からすでにAboveにいる日もあれば、ギリギリでショーアップし、気持ちが追いつかないままBelow寄りでスタートする日もあります。
睡眠不足。 家庭のこと。 前便からの疲れ。
理由はさまざまですが、それでも時間になればドアはクローズし、フライトは始まります。
そんな中で、ブリーフィングで私がよく口にする言葉があります。

"You can't pour from an empty pot."

空っぽの器からは、何も注ぐことはできない。
どれだけサービスマインドがあっても、自分自身に余裕がなければ、それを誰かに分け与えることはできません。

これは甘えではなく、むしろプロフェッショナルとしての前提だと感じています。
まずは自分の状態に気づくこと。 無理に完璧でいようとするのではなく、「今日は少しBelow寄りかもしれない」と認識すること。
それだけで、少し呼吸が整い、視野が戻ってきます。

短いステイの強い味方、ルームサービス。ヴァージンクルー用のお得なメニューも出来て、印、洋、アジアンよりチョイス可。それぞれミートとベジタリアンも選択できます。筆者はミートのオプション。


そしてもう一つ大きいのが、チームの存在です。
誰かがBelowにいる時、別の誰かが自然とAboveで支えている。 自分に余裕のある日は、ほんの一歩前に出て誰かをカバーする。
言葉にしなくても、その流れは確かに機内に存在しています。
忙しいフライトほど、それは顕著に表れます。
ギャレーが立て込んでいる時、さりげなくポジションに入ってくるクルー。 キャビンの空気が重い時、ふっと流れを変える一言をかけるクルー。
そういう瞬間に、「チームワークが心地いいな」と感じます。

Virginでは、「Brilliant Basics」と「Magic Touches」というサービスEthosがあります。
Brilliant Basicsは、人で例えるなら生命維持に欠かせない、"Non-negotiable"な存在。 つまり、セーフティーとセキュリティーです。
これなしでは、会社は存続できません。
その上で、「Fit」であること。 健康な状態で、通常運航を維持できていること。
そして、その先にあるのが「Sexy」です。
安全・安心があってこそ、人は初めてサービスを心から楽しむことができる。 つまり、「Magic Touches」として、お客様に非日常を楽しんでいただける演出が生まれるという考え方です。

どんな日でも揺らがないBasicsは、Belowに傾きそうな自分を支えてくれる土台。 そしてMagicは、自分の器に少し余裕がある時に、自然と外へあふれ出るものです。
無理に生み出すものではなく、整った状態の延長線上に生まれるもの。
だからこそまず、自分の"ライン"に気づくことが、すべての始まりなのだと思います。

ムンバイのクルールーム。
キャビンスーパーバイザーのクルーJose、コックピットクルーと昼食。


とはいえ、毎回Aboveでいられるわけではありません。
満席便。 イレギュラー。 乱気流。
思い通りにいかない日がほとんどです。
それでも、ブリーフィングルームで顔を合わせた数分の中で、少しずつスイッチを入れていく。 制服に袖を通した瞬間に、プロとしての自分に戻っていく。
その小さな積み重ねが、結果としてフライト全体を支えているのだと感じます。
フライトが終わり、ギャレーで交わす互いを称え合うひと言。

"That was a lovely day at the office!"

その言葉の中には、それぞれがどんな一日を過ごしてきたのかが、言葉以上に込められているように思います。

Aboveのまま終えられた日もあれば、なんとか踏みとどまった日もある。 どちらも、この仕事の現実です。
今日もまた、それぞれの"心模様"を抱えながら、同じ空に立つ仲間たちへ。
空っぽのまま無理に注ごうとせず、まずは自分の器を満たすことから。
その上で生まれる一つひとつのサービスが、きっと誰かの記憶に残るフライトを作っているのだと思います。


ブリティッシュミュージアムのエントランスエリア


古代エジプトで神聖な存在の猫のミイラと、神聖な偶像: 猫の頭を持つ女神バステト


ロンドンという街は、ヒースロー空港のように誰かの'通過点'でありながら、確かに記憶を刻んでいく場所なのかもしれません。
庭先には、狐の親子が顔を出し、地下鉄のプラットフォームや線路には、小さな街ネズミが見え隠れしています。
ロンドンは、いつの季節になっても生命力に満ちていて、世界中から人が流れつき、また離れていく場所です。その流れの中に自分も身を置きながら、今日も空と地上の間を行き来しています。

賑わうコベントガーデン


次回へ続く