第81回 From London vol.212026/07/29
How high can you fly? ──あの日、私の心を鷲掴みにした「憧れの正体」
前回のコラムでは、ヴァージン・アトランティック航空が打ち出した「メイクやタトゥーの自由化」という、赤い制服の歴史における大きな革命についてお話ししました。
「形にとらわれず、ありのままの自分でいること(Bring your whole self) 」こそが新しい時代のプロフェッショナリズムであると、今のキャビンを見ながら強く実感しています。しかし同時に、私自身の胸の奥底には、30年経った今でも絶対に色褪せない「私の原点」とも言える強烈な憧れの記憶が息づいています。
今回は、私がまだ何者でもなかったあの頃、私の人生の舵を大きく「空」へと切らせた、30年前のいくつかの運命的な出会いについてお話しさせてください。
前回のコラムでは、ヴァージン・アトランティック航空が打ち出した「メイクやタトゥーの自由化」という、赤い制服の歴史における大きな革命についてお話ししました。
「形にとらわれず、ありのままの自分でいること(Bring your whole self) 」こそが新しい時代のプロフェッショナリズムであると、今のキャビンを見ながら強く実感しています。しかし同時に、私自身の胸の奥底には、30年経った今でも絶対に色褪せない「私の原点」とも言える強烈な憧れの記憶が息づいています。
今回は、私がまだ何者でもなかったあの頃、私の人生の舵を大きく「空」へと切らせた、30年前のいくつかの運命的な出会いについてお話しさせてください。
SEA - LHR便上空より
A330-900アッパークラス ヒースローランディング前下降中 小さなキャビンクルーさんお二人にランディングスイーツサービスをお手伝いしてもらっている様子
当時、私の心を最初に鷲掴みにしたのは、ヴァージンの求人募集に躍っていた、ある挑戦的なキャッチコピーでした。
"How high can you fly?"(あなたは、どこまで高く飛べる?)
ただ「空を飛ぶ仕事」という枠を超えて、「あなたの可能性はどこまで広がっている?」「自分の力でどこまでいけるか試してみない?」と、私の人生そのものに問いかけられているような、痺れるような感覚を覚えたのを今でも鮮明に覚えています。
その直後に出会ったのが、創業者リチャード・ブランソンの自伝『Losing My Virginity(邦題:ヴァージン―僕は世界を変えていく)』でした。常識を破り、型にはまることを拒み、自分の情熱だけを信じて突き進む彼の破天荒でエネルギッシュな生き方は、若かった私のバイブルとなりました。「この人が作った会社で、この人と一緒に働きたい。ここなら、私はどこまでも高く飛べるかもしれない」──そんな根拠のない確信が、胸の中でふつふつと湧き上がってきたのです。
さらに、その情熱を決定的なものにしたのが、当時貪るように読んでいた『スチュワーデスマガジン』の誌面でした。
そこに写っていたのは、ダイアナ妃のウェディングドレスを手掛けた気鋭のデザイナー、エリザベス・エマニュエルがデザインした、新生ヴァージンの真っ赤な制服をまとったダイアナ妃の姿でした。
洗練されていて、エレガントで、それでいて誰も追いつけないほどの圧倒的な華やかさと強さがあり、その息をのむような美しさを目にした瞬間、私の心は完全に奪われました。
スカーレットレディーのトレーナーを着たダイアナ妃
求人広告のキャッチコピーや、リチャードの哲学、そしてダイアナ妃が証明した赤い制服の美しさ。それらすべてが、30年経った今も、ヴァージンアトランティック航空のフライトサービスマネージャー(FSM)として空を飛び続ける私のアイデンティティであり、生き方の根幹(コア)になっています。
時代が変わり、どれほどルールが自由になろうとも、私があの日ウェスティンの最上階で施してもらった「ヴァージンレッド」のリップを今も大切に引き出しにしまっているように、あの日に抱いた「誇り」と「憧れの熱量」だけは、何ひとつ変わっていません。
それは、今、空でも地上でも挑戦を続けている現役や元クルー(OG)の皆さんも、きっと同じだと思います。
人というのは変わった生き物で、ただ理論的に納得しようとしても心が動かないようです。「カッコいい」とか「面白そう」なもの、「憧れ」が絶対的に人を突き動かしていると思います。
"いち乗務員として社会貢献出来れば"、とか、"得意な接客や語学を活かして"云々と面接では言うかもしれませんが、絶対的に私たちの心を動かして離さないのは、もっと単純な動機なのかもしれません。機内という特別な空間を目指したあの日の情熱、美しい先輩の姿に憧れ、必死に訓練を乗り越えたあの時の記憶。それらは単なる「過去の思い出」ではなく、今も私たちを形作っている、ブレない根幹です。
もし、「自分を見失いそう」になったり、日々の忙しさに追われて小さくなりそうになったら、
"How high can you fly?"を、自分に投げかけて明日に向かって羽ばたきましょう!
ロンドン発ブリティッシュ・イングリッシュ
前回予告したフレーズ、
"White or black?"
"I'm sweet enough, thanks."
"Still or sparkling?"
これは、私がコックピットクルー(操縦士)たちにお茶や水をサービスする時の、定番のリズミカルなやり取りです。
"Still or sparkling"は、その通り、ボトルの水のチョイスで、ガス有無どちらが良いかと言う時に使います。
"White or black?" は、コーヒーや紅茶に「ミルクを入れる(White)?入れない(Black)?」という意味。臨場感溢れるコックピットで、ベテランのキャプテン(機長)に "Would you like some sugar?"(お砂糖は入れますか?) と聞くと、大真面目な顔をしてニヤリとこう返事が返ってきます。
"I'm sweet enough, thanks."(いや、僕はもう十分に甘い(魅力的だ)から、砂糖は要らないよ、ありがとう)
おじ様キャプテンたちがこの洗練されたユーモアを返してくるたび、イギリス人って本当にチャーミングだなと心が和みます。
ちなみに、フライト前のブリーフィング中、機内で集合するかどうかを確認するために、FSMである私が「Shall I put the kettle on?」と声をかけることもあります。直訳すると「ヤカンを火にかけましょうか?」ですが、これは機内のボイラーをイギリスの家庭のケトルに見立てて、「一足先に機内に搭乗して、みんなのために温かいお茶の準備をしておこうか?(先に機内に入っていい?)」という、クルー同士の思いやりが詰まった大切な合言葉なのです。
そして、今回のテーマ「How high can you fly?」に合わせてもうひとつ、大好きなイギリス英語をご紹介させてください。
"Sky's the limit!"(可能性は無限大!)
直訳すると「空が限界」ですが、これは「空が限界なのだから、地上には限界なんてない。つまり、可能性はどこまでも無限だ!」という意味で使われる、とてもポジティブな表現です。
新しい挑戦をしようとしている人を励ます時や、自分自身を奮い立たせる時に、よくこの言葉を口にします。
可能性は "Sky's the limit" です!
シアトルの出発玄関口
25年来の友人マイケルと乗務記念写真
次回へ続く
